ヒーローになり損ねた男。

 第31節の清水エスパルス戦は2-3。
二回のリードを追いつかれて、最後にひっくり返された。この時期にこんな逆転負けをしてしまうとは・・・なんて骨体。思わず茶魔語が出ちゃうぜ。
 タイムアップの瞬間、山本真希が地面を叩いて悔しがっていた。
彼があそこまで感情を出していた姿は珍しいですね。古巣だったので、特別な思いもあって臨んでいたことは想像に難くない。試合後に聞くと、「そりゃ・・・悔しいですよ」とポツり。「後半はボールを受けるのが、少し足元、足元になってしまう部分がありました。味方が前に張っていることで、相手のDFラインにも吸収されてしまった。ケンゴさんはそういうときでもうまく相手の間でボールを受けてくれるのですが・・・ただケンゴさんがいなくても、誰かがやらないといけなかった」と反省の弁。
 分岐点になったのは、やはり中村憲剛が負傷交代でピッチを退いてからか。
布陣が[4-2-3-1]から[4-4-2]になり、中央よりもサイドから切り込む反面、DFラインと中盤の間でボールを受ける選手がいなくなってしまい、少し攻撃が単調になった印象だった。
 中村憲剛に代わって入り、右サイドハーフでプレーした金久保順に聞くと、「ディフェンスラインと駆け引きしながら一発で抜けることができたらよかったんですけど、もう少しボランチのサポートをしたほうがよかったかもしれないですね」と分析。
 組み立てよりも、フィニッシュに絡むことに意識を置いていたようだったけど、あの時間帯は確かに判断が難しいところだったと思う。中央が2トップになっていたので、無理にトップ下の位置で受けようとすると、バイタルが渋滞してしまうし、レナト、福森の左サイドから形は作れていたので、そこからのクロスが右サイドに流れて来る場面も多々あるので、なるべくゴール前に詰めていなくてはいけないだろうし。このへんは結果論か。
 チームとしては、ここにきて試合に出続けている主力選手のパフォーマンスが芳しくないのが気にかかる。例えば、谷口彰悟。パフォーマンスの波が少なく、アベレージの高い選手だったが、ここにきて、らしくない判断のミスと技術のミスが目立つ。当初はチームの足りない部分を埋める役割を左サイドから担っていたものの、いまではセンターラインで外せない存在として出続けていることも相当な負担になっているのかもしれない。彼はまだプロ1年目なのだから。
 一方で、プロ4年目で初ゴールを記録したフクこと福森晃斗は、出来としてはハイスコアに近かったかもしれない。このハイスコアを続けることが大事であって、ハイスコアをアベレージと勘違いしてはいけない。特にフクは、えぇ。
 フクは試合後のドーピング検査対象だったため、ミックスゾーンに現れなかった。あきらめて記者室に戻って仕事をしていたら連絡が来たので、がらんとしたミックスゾーンへ。顔なじみの番記者数名人いただけだったので、ラッキーボーイになり損ねたフクをみんなで少しちゃかす。フクはリーグ戦今季2試合目。前回はホームの大宮戦。前半だけで替えられているが、試合終盤に逆転された悪夢のような試合だった。
 今回は前半から左サイドから右サイドにいる小林悠を狙って、幅を使った展開を試みていたりと、キック精度を生かしたらしい持ち味は出していた。そして高さを生かしたCKでの得点。「前日練習でニアにいく動きをしていたので。ケンゴさんがいいボールを狙ってくれたので、頭に当てるだけでした。あれはケンゴさんが8割のゴールですね。ふふふ」と不敵な笑み。彼のゴールだと発表された瞬間の等々力のどよめきったら、なかったですなぁ。それだけに勝たせてあげたかったですが。
 翌日、浦和の勝利に伴い、残り3節でフロンターレと浦和の勝ち点差は「10」になった。つまり、わずかに残っていた優勝の可能性が消滅しました。勝ち続けて奇跡を信じる状況だったので、負けてしまっては、その資格もありません。
 ただまだシーズンは終わっていない。大久保嘉人の残留・移籍をめぐる報道合戦でしばらくは麻生も騒がしくなりそうですが、チームには残り3試合しっかり集中してもらいたいと思います。
僕もまたいろいろやっていきます。
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等々力取材鳥栖戦〜DFラインと理想は高くあれ。

 昨日は鳥栖戦でした。
「ハロー・ウィン!」ということで、ハロウィン・ふろん太のアクリルキーホルダーを買うたりましたよ。540円也。

 試合も「ハロー・ウィン!」ということで、2-0で勝利にご挨拶できました。
 この鳥栖戦、ポイントは本当に色々ありましたけど、個人的に一番評価したいのは、最終ラインですね。まず守備面では、3試合連続得点中だった豊田選手に仕事をさせなかったことを含め、サイドからのクロス対応もしっかり跳ね返していました。非常に安定していました。
 それ以上に評価したいのが攻撃面です。まず前半には去年やっていたビルドアップのときにボランチ(山本真希)が最終ラインに下りて、両CBがサイドに開く変則的な3バックをやる場面がありました。これが、まずまず機能していました。
 この形で特に生きたのがレナトです。というのも、谷口選手が左サイドバックのような位置取りをするので、本来の左サイドバックであるノボリが一列押し出された中盤のアウトサイドのようなポジションになり、レナトもより高い位置でボールを受けることができます。そして中盤で浮きやすいノボリが間でボールを受けた際は、相手の右サイドバックがノボリの対応に出て行くので、そうなるとレナトはほぼフリーです。前半は左からドリブルで切れ込んでいくチャンスもありました。それを決め切れないのが今のレナトなのですが・・・・。このビルドアップの工夫は攻撃面で効いていたと思います。
 この日の最終ラインでもっとも評価したいのは、高いDFラインを保って戦い続けたことです。實藤選手と谷口選手によるCBコンビ、ノボリと田中選手のSBコンビで形成される最終ラインの場合、全員にスピードがあるので、DFラインを高く維持しやすいという持ち味があります。鳥栖戦ではこれを存分に出すことが出来ました。高いDFラインを保つことにより、チーム全体がコンパクトな陣形を維持し、選手同士がいい距離感で攻撃できる、セカンドボールも拾えるなどの様々な利点があります。
 例えば2点目の場面。
小林選手のシュートの凄さばかりに目がいきますが、その起点もよく見て欲しいと思います。「ラインを高くして自分が前に出て行くことで、相手に蹴らせたボールをショウゴ(谷口彰悟)が取って、そのボールをリョウタ(大島僚太)につないで、コバくん(小林悠)に入れたんですよ」とノボリ。
 あの場面を巻き戻してみると、相手が前線に入れようとしたパスを、センターサークル付近まで出て構えていたCBの谷口選手がカットし、大島選手に渡したことでつながった形なんですね。DFラインを高くしていたことで生まれた得点だったとも言えます。高いDFラインは、今後もチームのポイントになりそうです。
 なにせよ、今年は鳥栖にリーグ戦2戦2勝をあげることができました。
昨年はフィジカルの強さを打ち出したハイプレスを仕掛けて来る鳥栖に苦しみ、リーグ戦と天皇杯を含めて3戦全敗でしたから。このスタイルに打ち克てなかったことで、ここぞとばかりに風間フロンターレのスタイルも酷評されてましたからね・苦笑。今節は浦和と鹿島が引き分け、ガンバが負けたことで上位陣はフロンターレの一人勝ちでした。これで終戦とならず、優勝戦線にも踏みとどまることができました。まだまだ追い風は吹いてますね。
残り5試合、DFラインと理想は高くいきましょう。
 
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 今週のサカダイで山形のライター・頼野さんによる「将棋×サッカーコラボの可能性」という題した波戸康広さんの活動レポートが掲載されてます。これまでの将棋とサッカーのコラボ企画の変遷がわかる記事です。僕の「将棋でサッカーが面白くなる本」も紹介してもらってます。ちなみに大島選手のアジア大会総括インタビューも掲載されてます。
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「刈ったら勝った」のその後。

 明日は鳥栖戦です。
今シーズンも残り6試合。リーグ戦連敗により浦和との勝ち点差は8。優勝は厳しくなりましたが、こういうときこそ、「あきらめたらそこで試合終了です」の精神ですよ。「今がどん底だと思っているから、ここからはよくなっていくでしょ」と大久保選手。チームとしてもリーグ戦は2試合連続無得点。攻撃陣には等々力で爆発してもらいたいものです。
 ノーゴールでしたが、入っていてもおかしくないシーンはありました。後半、左サイドから切り崩したレナトの折り返しに、足元で角度を変えた小林選手のシュートです。
 ガンバのGK東口選手の逆を突き、無人のゴールに吸い込まれると思った瞬間、超絶的な反応で瞬間的に手を伸ばして飛びついた彼に、見事にキャッチされてしまいました。あのセービングはGKを褒めるしかないですね。脱帽です。
 あのシーンを振り返って、「もちろん決めなきゃダメなんですけど、実はあれ簡単ではないんですよ」と小林選手。聞くと、レナトのボールスピードもかなり速く、動き直す余裕がなかったので、実際には足の角度を合わせるだけで精一杯だったようです。「少しでもこっち(右側)を狙ったら、(ゴールの)枠を外れていたと思います」と、いかにあのパスに反応してインサイドで枠内に流し込む作業を難しかったのかを、身振り手振りを交えて熱弁してくれました・笑。よっぽど悔しかったみたいです。ゴールに飢えているストライカーたちに期待しましょう。
 今日の前日練習後、ひとしきり取材した後に、「鳥栖キラー、頑張ってよ」と声をかけると、「はい。ぶち込みます」と力強い(適当とも言う)返事をしてくれたN里選手。
 実は前回の第16節のサガン鳥栖戦で、見事な決勝弾をあげたのが他ならぬノボリだったのです。試合前日に髪の耳周り部分を大島選手にバリカンで刈り上げてもらってから試合に臨んで今季初ゴールを記録。その後、「刈ったら(鳥栖に)勝った」というゲキ担ぎをするきっかけにもなりました。このゲンかつぎは、確か5戦5勝ぐらいの驚異的な勝率だったはずですが、8月のミツ沢でノボリの退場で敗戦してから、なくなったみたいです。
 ただ、今日そのことを聞いたら、「あの(ミツ沢の)試合は退場したからノーカウントなんです。だから自分の中では不敗神話は継続中なんです」とのこと。あの試合はノボリ的には、ノーカウントだったのね。相変わらずのポジティブ思考です・笑。
 ちなみに今はこのゲンかつぎ、やっていません。バリカン係の大島選手に聞いたら「今はやってないですねー。ノボリさんもヘアースタイルを変えたので」とのことでした。今は耳回りもしっかりありますからね。ただ、新井選手のベンチ入り不敗神話が前節で途切れた今、ノボリのゴールで「刈ったら勝った」のゲンかつぎ復活を密かに期待したいところです。
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新潟戦〜フロンターレが戦っていた二つのプレッシャー。

 
 ビッグスワンでの新潟戦は0-3で完敗。
ビッグスワンになると途端に勝てませんね。等々力では新潟相手に良い内容のサッカーが出来るのに、ビッグスワンだとなぜか防戦一方になってしまう。
 漫画「聖闘士星矢」の冥王ハーデス編で、ハーデス城の結界により、黄金聖闘士のムウ、アイオリア、ミロの3人が実力の10分の1も出せないまま、ラダマンティスに倒されるという場面があるんですけど、ビッグスワンでのフロンターレの選手のプレーを見ていると、なんだかそんな感じです。
 そんな冗談はさておき。
この試合、フロンターレは二つの大きなプレッシャーと戦っていました。
 一つはアルビレックス新潟がかけてくるプレッシャー。
2トップと中盤の4人が連動し、ボールホルダーを挟み込む形で距離を詰めていくプレッシャーの圧力は、想定通りとはいえ、やはりやっかいでした。ボールハントの中心にいるレオ・シルバの存在もそうですが、新潟のプレスは、例えばサイドの球際のところで最後にしっかり足を出してくるんですよね。これでタッチラインを割ったり、ワンテンポの遅れを生んだり、と思うようにかいくぐれませんでした。
 これ以外にも新潟の守備意識の高さは際立っていました。
目を引いたのが後半、右サイドでの攻撃の際、相手の守備を引きつけようとしてジェシが自陣からオーバーラップしていった場面です。この動きに対して、相手のFWであるラファエル・シルバが猛然と攻め上がるジェシを追いかけて自陣深くまでマークについていったんですよね。人に付き切ることで、簡単には相手に数的優位を作らせないということ、なによりブラジル人のFWがあそこまで守備をしに帰るのか、とその守備意識の高さに舌を巻いたもんです。
 もちろん、新潟のプレッシャーに屈したことを相手の問題で済ませてはいけません。自分たちの問題として、目を向けることのほうが大事だからです。
 例えば、この日のダブルボランチ。チームのリズムを奏でるボランチの組み合わせは、アジア大会帰りの大島選手と、本職であるボランチのポジションで少しずつ存在感を見せてきた谷口選手になりました。ただ良くなかったです。今週に組んだばかりのダブルボランチに「完璧」を求めるのは酷なのですが、チームは優勝争いをしているのですから、それでも、やってもらわないと困ります。
 気になったのは、お互いの役割分担が少し曖昧だったように見えたことです。例えば相棒がパウリーニョのときの谷口選手は、攻撃に積極性を出す意識が高いです。ただ大島選手と組んだときは、その役割を任せていて、谷口選手が少し全体のバランスを取る役割に徹していた印象です。これはこれで機能すれば良いのですが、この試合ではタクトを振る役割の大島選手に冴えがありませでした。ならばもっと谷口選手がゲームを作る仕事をしなければならなかったと思います。
 そして大島選手。輝きがありませんでした。アジア大会で出続けていたため、試合勘は問題ありませんが、まだフロンターレでのプレー感覚が完全には戻っていないのでしょう。やはり一ヶ月のチーム離脱は、彼にプレーに少なくないズレを与えています。
 例えば、普段であれば、プレスをかけてこうようとする相手と駆け引きで、パスを散らしながらボールを受け直す作業を続けていくのですが、この日は、相手のプレスに掴まらないパスが精一杯になってました。フリーになっても、出したボールにミスパスが目立ちました。新潟のプレスが激しいことを指し引いても、プレーを選択するときの余裕がなくなっているんです。これでは彼の良さは出ないですし、前線の攻撃陣にいい形でボールが入るわけがありません。正直、前半だけで交代させられてもおかしくなかった出来だと思いましたが、風間監督は後半に憲剛選手と組ませてピッチに立たせました。チームの浮沈を握っているポジションですから、彼の奮起に期待します。
 そしてこの試合、フロンターレが戦っていた、もう一つのプレッシャー。それは優勝争いのプレッシャーです。
 新潟戦は、このカードで唯一の7時キックオフのナイトゲームでした。選手も首位・浦和の勝利を知っている状態でキックオフを迎えたと思います。暫定で勝ち点差8ポイントが付いていました。引き分けではなく、勝って5まで縮めなくてはいけないというのは、少なからず選手のプレッシャーになっていたのでしょう。勝つ事でプレッシャーをかけたい立場のはずが、開始時間の関係で逆にプレッシャーを受けて臨む試合になっているわけです。
 そして先制点を奪われる展開になり、そして後半になってもうまくいかない時間帯が続くと、チーム全体がとてもナーバスになっているのが感じられました。そして自滅のような形で失点を重ねてしまいました。本当に強いチーム、優勝するチームは、そんなプレッシャーをも跳ね返していくものです。リーグ戦は残り7試合。優勝争いというプレッシャーを克服するための強い意志をしっかりと見せて欲しいと思います。
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 日本代表に選出された小林悠選手の原稿を書きました。
川崎F・小林悠が“エース”と呼ばれる日――。日本代表FWの才能を開花させた大久保・ジュニーニョの存在感
「ジュニは『俺を見ておけ』っていうタイプで、嘉人さんは『俺がやるから付いてこい』というタイプですね。ジュニはお父さんで、嘉人さんはお兄さんという感じです」
ジュニーニョと大久保嘉人という、偉大な2人のストライカーが小林選手に与えた影響について書いてます。シンガポールでのブラジル戦は、ジュニーニョもテレビで観戦しているかもしれませんね。... 記事を読む