矢野大輔さんの「通訳日記」を読了〜代表チーム作りにおける4年というサイクルの難しさ。


 矢野大輔さんの「通訳日記 ザックジャパン1397日の記録」を読了。実際にはもっと前に読み終わっていたんですけど、そういえば書評を書いていなかったですね。

 4年分の日記ですから、さすがにボリュームあります。
内容としては、あくまで通訳という立場から見たもの、聞いたものの事実を記録しておいた「日記」ですので、敗因を分析したり、暴露本のようなものとはテイストが違います。ザッケローニの傍らにいて拾った言葉、サッカー哲学、チームマネジメントの考え方や通訳を介して行われていた主力選手とのやりとりもところどころにちりばめており、それもしっかりと拾っております。「サッカーは新しいシステムを作った者が勝ちだ。止め方がわからないからだ」とかのザックの言葉は、将棋の新戦法、新手を編み出した棋士に通ずるものがあるな、とか思いながら読んでました。ちょっとした選手のエピソードも多いので、サッカーにあまり詳しくない人も楽しめる内容ではありますね。


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 ザックは等々力にもよく視察に来ていたので、そのときの話題やフロンターレの選手の名前もちょくちょく出てきます。例えば、今年5月3日の甲府戦。ザックが視察に来るということで、フロンターレサポーターは「ザックさん、俺たちのヒーローに注目してくれ」とイタリア語で書いた横断幕を掲出しました。

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(↑これね)
ザックと矢野さん、2人とも写真に撮っていたそうです。

 フロンターレに関していえば、大久保嘉人がサプライズ選出され、その一方で中村憲剛がギリギリまで迷って落選。ここに関する選考理由もつづってありますが、「起用法を考えると多くの出番は与えられないと考えたし、力が同等なら若い方を」という記述を読むと色々と思うところはあります。すべては監督の決断だし、それがサッカーの世界なので、そこを言っても仕方ないですけどね。

 


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 この本を読んでいて感じたのは、代表チームとしてのサイクルですね。やっぱり同じ監督が4年も率いると、最後の1年は少しマンネリしている気がします。「代表チームって、3年ぐらいのサイクルで監督が代わるのがちょうどいいんじゃないかな?」って思うんですよ。
 
 なんで代表が4年一区切りにしているかというと、これはもちろん、ワールドカップのカレンダーに合わせて動いているからですよね。ただサッカーチームの作るときのサイクルとは、少しズレている気がするんですよ。代表チームの場合、スケジュール的な問題で、なかなかまとまった合宿期間も取れません。なので、ある程度固定メンバーで戦い続けることで骨格を作り連係や意思疎通を高めてながら、徐々に肉付けしていく・・・これは定石だと思います。そしてこうやってチーム作りを進めていると、だいたい集大成なり、ピークを3年目で迎えてしまうケースが多い気がします。そしてその旬を、残り1年をどう維持して、本大会を迎えるか。その舵取りが難しいですよね。

 ザックジャパンでいえば、3年目で迎えた2013年のコンフェデレーションズカップ。このときチームは、始動してから3年間の集大成だったと僕は思ってます。しかしブラジル、イタリア、メキシコとの真っ向勝負を挑んで全敗。ここから上積みをするためにどう舵を切るのか。ザックは既存のメンバーに刺激を与えられる新戦力として若手に目を向けて、彼らと融合させることを決断しました。

 結果的に、これはチームの骨格を変えるほどの決断になってます。例えば、ダブルボランチ。ザックジャパンの象徴的なユニットは遠藤&長谷部でした。2010年から2013年のコンフェデまでほぼ不動です。なんでそこまでこだわっていたのか。おそらくザックは、4年後を見据えても、このダブルボランチで本大会まで乗り切れると思っていたのだと思います。だから、別に他の選手やユニットを試す必要なんてなかった。

 しかし3年を過ぎると、このコンビが成熟を越えてマンネリしてしまったのか、あるいは相手に研究され過ぎたためなのか、それともどちらかのパフォーマンスが気に入らなかったのか・・・そこはわかりませんが、残り1年を切ったところで、このユニットの一角に山口蛍を重用します。

 結局、そのまま本大会でも彼がファーストチョイスとなりました。本大会では、長谷部は出場したものの、ケガで大会登録も危ぶまれるほどのコンディション状態、遠藤はスーパーサブという位置づけになりました。序列が覆らないと思われていたほど盤石だったダブルボランチのユニットが、残り1年であっさり解体せざるをえなくなったわけです。そしてその決断が成功したかと言われると、おそらく否でしょう。じゃあ、どうすればよかったかと問われると難しいです。やはり4年間にはチーム作りのサイクルという難しさがある気がしてます。

 もちろん、「わかってるなら、最初から4年後にピークを持っていけるように調節しろよ」って話なんでしょうけど、それができれば苦労しないわけで。毎年国際大会やらワールドカップ予選がある中で、内容と結果を両立させながら一戦必勝のチーム作りも進めざるをえない難しさがあるわけです。中学3年生がいくら4年後の大学入試に合格する為の勉強をしているといっても、目前の中間や期末テストで赤点を取り続けていて高校を卒業できなかったら、大学入試も受けられないですから。というか、始動してまだ数ヶ月のアギーレ監督を見れば、わかりますが。

 そんな風にチームのサイクルを頭に入れつつ、「この時期にザックはこんなアプローチをしていたのね」などと彼のマネジメントについて注意しながら読んでも、面白いと思います。

 著者の矢野さんは、今後どうされるでんすかね。
ジェフ時代にオシム監督の通訳をされていた間瀬秀一さんが言ってましたが、通訳という立場は、世界的な監督から直接サッカーの講義を一番近い場所で受けているとも言えるわけです。その経験を自分の中でどう生かしていくのか。

 間瀬さんは、通訳ではなく指導者としてキャリアを積み始め、ファジアーノ岡山や東京ヴェルディでコーチをつとめました。矢野さんが今後、どういうキャリアを描いていくのか。少し楽しみでもあります。


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