リライト書評:天野春果部長の「僕がバナナを売って算数ドリルを作るワケ」


 どうも、いしかわごうです。


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 昨日のブログで、USJのマーケター森岡さんの本を天野部長を引き合いに出しながら紹介したわけですが、よく考えたら天野部長の本「僕がバナナを売って算数ドリルを作るワケ」をこのブログではちゃんと紹介してなかったですね。これはぜひ読んで欲しい本なので、前のブログで数年前に書いた書評をリライトして紹介します。

 天野部長とは、川崎フロンターレの集客プロモーション部・天野春果部長のことです。この本は、名物部長である天野部長が書いたスポーツビジネスの本です。タイトル長いので、フロンターレサポーターの間では「僕バナ、ドリつく」と略して呼ばれてます。フロンターレサポーターの必須アイテム本ですね。

 企画やアイディアを形にする仕事をしている人にはさまざまなタイプがいるもんですが、天野さんを中心としたフロンターレのプロモーション部ってどういうプロセスでこういう企画を生み出して、実行しているんだろう?って、ずっと疑問に思っていました。幸いにも僕は普段からフロンターレを取材させてもらっているので、現場やスタジアムで会うスタッフさんに「今度やるあのプロモ企画、おもしろそうですねー」とか立ち話しながら、いろいろ聞かせてもらうことはあるんですが、クラブとしてどういう志を持って、どういう風に背景で企画が生まれてきているのか、根っこのところまではなかなか知りえません。この本が発売されたのは3年ほど前で、これを読んでその疑問がすーっと解決したのを覚えています。

 アイディアを形にするプロセスとして天野部長はゲームの「テトリス」を例にあげています。
「アイディアがそのまま企画になることはない。ゲームのテトリスのように、横にしたり逆さまにしたり、向きや形を変えて隙間にはめていく」というイメージだからです。よく「アイディアは組み合わせ」という人もいますが、天野部長の場合は、「形を変えてはめ込んでいく」というイメージなのでしょう。

 本の最初に紹介されていたのは、「川崎フロンターレ算数ドリル」ができるまでの話でした。

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いまはどのサッカークラブでも地域密着活動の一環として、サッカー教室ってやっています。これはこれで立派な貢献活動ですし、それがきっかけで子供たちがサッカーに興味を持ってくれたり、クラブを応援してくれたりサポーターになるケースもあります。でもこれって、あくまで「サッカー」という切り口でのアプローチでしかありません。サッカーを通じて子供と触れ合っているというわけで、どうしても入り口が限定されてしまうんですよね。それに「サッカー選手が小学校でサッカー教室を開催した」ではあまりメディアでは話題になりません。

 では、違う切り口で可能性を広げるにはどうすればいいのか。
答えはいろいろあると思います。そこでフロンターレの場合は、算数ドリルを作って、選手が「算数」の授業を教えに行くというアプローチをしています。フロンターレの選手は、校庭で小学生とサッカーをする先生になるのではなくて、ドリルに載っている問題を教える算数の先生として小学生と触れ合う機会を設けた。これは現在も毎年行っています。去年は大久保嘉人が行きましたし、今年は中村憲剛と山本真希が先生になりました。これは特に、サッカー観戦に縁がない層と言われている小学生の女子にサッカーとの接点を持ってもらうきっかけの手段にもなっています。

 こういう他とは違うトライをすることで、生まれてくる効果はたくさんあります。
例えば、宣伝価値もそう。「サッカー」というカテゴリーだったら、「川崎フロンターレ」というクラブのことはスポーツコーナーで宣伝されるかもしれません。でもここに「教育」というカテゴリーでの活動が加われば、スポーツという枠をこえて一般ニュースでも「川崎フロンターレ」が取り上げられる。サッカーに興味がない人にも認知されやすくなるわけです。僕も算数ドリルの授業のときに取材に行ったことがありますが、スポーツメディア以外のテレビカメラや記者もたくさんきていましたし、NHKの一般ニュースでも取り上げられたほどでした。サッカークラブの取り組みとして、新しい可能性を引き出しているな、と感じました。算数ドリルを作るのが目的ではなくて、出来たモノをどう活用するか、なのだとわかります。


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 等々力のフロンパークにいけば、いつも趣向を凝らした催しをしていて試合まで楽しませてもらってます。本書内では、過去のプロモーション企画の裏話なんかも紹介しています。全てを紹介しているとキリがないので、少しだけ。

 清水戦で行った「エスをねらえ!」というプロモーションタイトル。
これが「エースをねらえ!」をもじっているのは、すぐに連想できると思います。ただ、大事なのはここからさらに一工夫することなのでしょう。これで終わりではなく、試合日程を伝える街宣車でのアナウンスに、「エースをねらえ!」のアニメ主人公・岡ひろみの声優・高坂真琴さんを起用する手の込みよう。高坂さんの娘と天野さんが同じ小学校だった縁もあり、このおバカ企画もなんなく実現したそうです・笑。「そこまでやる?」と思いましたが、こういう「もう一工夫」のこだわりが大事。サッカーと同じで、フィッシュの精度で差がつくんでしょうね。

 ある年のガンバ大阪戦に向けた企画も同じ。
試合日が25日だからということでクイズ番組「アタック25」をもじった「アタック25日」と銘打ったプロモーションを展開してます。もちろんタイトルだけで終わるのではなく、ちゃんと「アタック25」を意識した企画になってます。司会者の故・児玉清さんには出演協力を断られたそうですが、めげずに児玉清さんのモノマネで人気のある博多華丸に登場させたプロモーション活動を展開。試合当日の観客席では、ガンバ大阪のカラーである青のパネルとフロンターレのカラーである水色のパネルを重ねて掲出し、クイズ番組のパネル音と同時に観客が切り替えていく仕掛けもしている。「25日の試合だから、アタック25」というところからスタートしている企画ですが、もし「大阪」というキーワードだけしか考えてなかったら、広がらなかったアイディアだと思いますね。まさにテトリスのブロックを埋めていく発想ですね。

・・・とまぁ、他にも色々なアイディアを形にする方法論が満載です。プロスポーツビジネスに限らず、どういうジャンルの仕事でも応用できる発想だと思います。いろんなヒントが詰まっていて、オススメ度の高い本なのでぜひどうぞ。

 天野部長はプロモーション部の企画裏話をまとめた小冊子もたまに書いていて、その編集を僕がさせてもらってます。

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「いっしょにおフロんた〜れ」企画の一部始終をまとめた「クラブ名にフロがつくのはウチだけなんです」と、選手との別れをまとめた「とても気が重く、とっても大切なプロモーション」。ファン感で発売しているものなので、一般の方には入手しにくいかもしれませんね。そのうち書籍発売できたら良いのですが。


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