書評:「名将への挑戦状 ~世界のサッカー監督論」


どうも。
サッカーライター兼サッカーブック・ソムリエこと、いしかわごうです。
今回紹介するサッカー本は、こちらです。
$いしかわごうの「サッカーのしわざなのだ。」
「名将への挑戦状 ~世界のサッカー監督論」。
雑誌『ワールドサッカーダイジェスト』のコラムを書いているヘスス・スアレス氏と小宮良之氏の共著。13人のフットボール監督の手腕を、スアレス氏がさまざまな角度から論評しています。
登場する監督は、この13人。
ジョゼップ・グアルディオラ
ファビオ・カペッロ
ウナイ・エメリ
ルイ・ファン・ハール
ホセ・アントニオ・カマーチョ
マルセロ・ビエルサ
ミカエル・ラウドルップ
ビセンテ・デルボスケ
ドゥンガ
ラファエル・ベニテス
ビクトール・フェルナンデス
アーセン・ベンゲル
ジョゼ・モウリーニョ
いやー、面白かった。
スアレス氏はスペクタクル論者で、その信念は清清しいほどブレがないです。だから、結果至上主義の指揮官を酷評するスタンスも一貫しています・笑。鋭く、かつ理路整然としているし、何よりその内容が刺激的。読み応え十分でしたわ。
スペクタクル論者としてのポリシーを、スアレス氏は本文の中でこう主張しています。
「 フットボールは『ゲーム』であり、そこには夢や希望や娯楽性がなくてはならない。勝利すること、そこに固執する者たちが多くなれば、たちまち味気ないスポーツになり下がることだろう。
 勝者と敗者。
そんなものは日常にありふれている。ボールゲームで人々を楽しませ、観客の予想を裏切る、そのために果敢に挑戦する指導者こそ、一流と呼べるのではないだろうか。 」

 だから、カペッロとかドゥンガとか現在のモウリーニョなどに対しては、本当に容赦ない。特にカペッロに対しては、「なんのシンパシーも感じない」、「史上最悪の悪役的勝利者。彼こそ、モダンフットボールに居場所を与えるべきでない男なのである」とか、痛烈にぶった切ってます。
 例えば、カペッロはレアル・マドリードを2度率いて2度とも優勝に導いている。それでも「『とにかく優勝したからカペッロを認めるべきじゃない?』とは陳腐な認識だ。マドリッドには優勝の流儀というものがあり、勝てばいいというチームではないのである。」と一蹴。その理由もこんな表現で語っている。

「スペインにおける中盤は、レストランの厨房のようなもの。レストランでもっとも大事な場所である。店構えや内装、ウェイターの給仕も大切だが、厨房で作られる料理でレストランの質が決定すると言っても過言ではない。ところが、カペッロはそこを簡略化してしまう。店の売り上げを高めるのに、広告活動と客を離さないサービスだけで利益を上げようとする。だが、私や多くのスペイン人は、そんな『カペッロ・レストラン』に足を運ぶ気はない。なぜなら、スペインのフットボールファンは、あくまで『シェフの料理』を楽しみにしているからだ。 」

 ちなみにカペッロ批判は、ベンゲルの章でも触れている徹底ぶりです・笑。

「いかに勝利し、いかに敗れるか。そこにフットボールの醍醐味は存在している。勝ち続けてきたといわれるファビオ・カペッロなどは、私にしてみれば『退屈を与える拷問者』でしかない。(中略)イングランド代表監督として戦った10年南アフリカワールドカップがどれほど無様だったか? 敗れ去ったカペッロは何も残らず、抜け殻同然だった。」

 あと読んでいて印象に残ったのは、ビエルサかな。
スアレス氏も「最も攻撃フットボールに対する強迫観念が強い」と評価している一方で、「生か死か。そこまでの潔さがビエルサの戦い方にはある。しかし彼のチームが頂点を極めるには、『神風が吹く』必要がある」とベップのバルサにように現実策も盛り込むべきではないかと、理想だけを追い続ける完璧主義者の姿勢にはやや疑問を投げかけている。
 しかしビエルサはそれでも変えない。
「私は決してカウンターアタックを採用しません。受け身の戦いを可能性を模索することなど愚策です。なぜ、私が凡愚に成り下がらねばならないのですか?自分にとってのフットボールとは、ボールの主役になることです。ボールを所有し、主導権を握る。そこに信念があるのです。にもかかわらず、相手にボールを渡した状態を想定した戦い方をトライするなど笑止千万。真に偉大なチームというのは、相手によって戦い方を変えるものではないのですよ」
 最後には「彼は厳しい戦いを承知で攻撃に打って出る。終始一貫したその姿勢は、勝敗などという枠組みを超えている」と言い、「 攻撃フットボールにカウンター戦術を取り入れれば無敵の指揮官になると思っている。しかしアルゼンチン人指揮官は信条を守り通すだろう。それが”LOCO(クレイジー)”ビエルサという男なのである。」と締めている。うーん、興味深い。
 バルサとレアルの2大指揮官については、バルサのスタイルを「至高の創造的フットボール」、モウリーニョのレアル・マドリードを「究極の破壊的フットボール」と評しています。最初のチャプターでベップ、最後のチャプターでモウリーニョという構成なのも、わざとでしょうね。その対比を楽しめるようになっている気もします。
名将への挑戦状 ~世界のサッカー監督論~/ヘスス・スアレス

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「見ていて楽しいサッカー」が好きなファンはもちろん、「つまらなくても勝てばいい」と思っているファンも一読する価値のある本だと思います。名将への挑戦状、オススメです。

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