[試合研究]J2第37節徳島対富山から[3-3-3-1]システムを読み解いてみる


J2第37節徳島対富山(0-1●)
 えー、この試合も[3-3-3-1]システムではなく、前節岡山戦と同じ[4-1-4-1]システムでした。かなりの長文になってしまったので、冷やかしはお断りです。読むならば心して読むようにしてください(笑)。
・富山[4-1-4-1]              20.苔口
       16.谷田           7.朝日
          18.カン    10.上園
             22.江添
      24.吉井  3.堤   6.濱野  19.西野 
             31.橋田
配置だけ見たら[4-3-3]にも見えなくもないですが、アンカーの江添の前に4人が上下して並び、1トップに苔口という感じなので、[4-1-4-1]にしておきます。徳島は、[4-4-2]のボックス。GKオ・スンフン、DF橋内、ペ・スンジン、三木、平島、MF青山、六車、柿谷、島田、FW佐藤、津田。
 試合の流れをざっくり。
連戦で疲労感が感じられた前節岡山戦とは違い、攻守にアクションをしかけていく前半でした。ホーム最終戦の徳島も気合十分で、序盤から見ごたえある攻防が続きました。お互いに守備の集中力も高く、富山は奪ってから苔口に預けてのカウンターや遠目からのミドル、徳島はCK、FKのセットプレーが中心で、両チームともエリア内での決定機が作れず。
 この状況に、徳島は前線でロングボールを受けていたFW佐藤が、中盤に下がって起点となり、そこに中盤の島田、柿谷が攻撃の厚みを加えていく。相手のサイド攻撃に対しては縦の3人が挟み込んで潰していた富山でしたが、やや間延びしている時に、江添の左右のスペースをタイミングよくボールを受けて使われると、どうしてもプレスバックが遅くなりますね。ボールを奪った富山は、前線にロングボールを出して苔口を走らせる攻撃が目立ちました。そこで相手最終ラインに対応されても、そのボールに対して、前線の選手がもう一度プレスをかけて、仕切り直していた感じです。
 前半最大の決定機は43分、セットプレーのクリアボールから富山がカウンター。谷田のクリアを拾った朝日がゴール前まで運んで、苔口がうまく囮となり、そこに走り込んできたのは、なんとクリアした谷田でした。シュートこそはずれましたが、この前半、谷田の運動量はすごかったです。ロスタイムには徳島の決定機。左サイドを突破した島田のスルーパスに、攻撃参加していた平島がエリア内でシュート。DFのブロックが空中でこぼれ球となり、それを佐藤がGK橋田と競り合いながら頭がプッシュ。しかしその競り合いファウルを取られてノーゴール。0-0でハーフタイムになりました。富山としてはラッキーな判定でしたね。
 ただ富山のGK橋田は、クロス対応がやや不安定ですね。後半開始直後にも似たような場面があったのですが、ボールの落下地点を見極める判断力、そしてジャンプするタイミングとポジショニングに難があり、FWとの空中戦で競り負ける場面が少なくありません。見ていて気になりました。
 ハーフタイムに安間監督から檄を飛ばされたのでしょうか。後半になり、谷田に負けじとカンと上園の運動量が目に見えて増しました。ボールホルダーを追い越す動きで攻撃に絡んでいき、いい形を生み出していく。54分には、高い位置でボールを奪い、ショートカウンターを苔口が持ちこみ、こぼれ球に上園がミドルシュート。
 後半も15分が過ぎようかという時に、両指揮官が動く。59分、安間監督は上園を下げて船津イン。美濃部監督も、徳重を投入。すると68分、一進一退の攻防から、中盤でボールを拾った徳島がハーフカウンター。ドリブルで中へ切り込む柿谷に、対応していた船津が振り切られてしまう。それと同時に、徳島の2トップの交差するような動き出しで富山の4バックを混乱させる。左サイドに逃げるFW津田にはCB濱野がエリアを捨ててついていき、中盤に下がろうとしたFW佐藤にCB堤もついていったのですが、その堤にボールを持っている柿谷がつっかけてきたことで、堤はバイタルエリアに引き出されて、佐藤ではなく柿谷の対応にいくような形になる。そのポッカリと空いたCBのスペースを柿谷が見逃さずにスルーパス。佐藤が走り込み、SBの西野がタックルで倒してしまい、徳島にPKの判定。津田がしっかり決めて徳島が先制。得点自体はPKですが、中盤での柿谷の突破力とスルーパス、そこに徳島2トップの連動した動き出しが、見事に機能した形だったと思います。富山の守備も破綻せず、よく頑張っていたのですけどねぇ。
その後、富山も平野、関原と攻撃的な選手を投入しますが、ガッチリとした徳島守備陣を崩しきれません。その中でも、決定機は2度ほどありました。75分には最終ラインからのフィードを苔口が頭でそらし、平野が走り込んでシュート。ブロックにいった相手DFの手に当たったのですが、残念ながら、笛はならず。82分にも、左サイドでパスをつないで突破していき、起点を作った関原が中央へ鋭くクロス。必死でクリアするDFに当たったボールがポストを弾く場面もありました。しかしこのままタイムアップ。富山はまたも連勝ならず、0-1で敗戦となりました。
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 前節同様、[4-1-4-1]システムを継続したわけですが、ここでは[3-3-3-1]システムとの違いを少し書こうかなと思います。まずシステムが違うとはいえ、基本的に、チームとしてのプレー原則は同じ。特に攻撃時は、サイドにボールを集めて、そこを起点に攻撃を組み立てていく。あるいは、背後にロングボールを出し苔口の動き出しを生かすという形が中心ですね。
 ただ守備面では、若干対応に違いがありました。
まず[3-3-3-1]での守りというのは、いわば「サイドが空きやすいから、そこから崩せば楽勝でしょ?」と考えている相手を逆手にとって、サイドに相手をおびき出して数的優位を作ってボールを奪うという側面があります。実際、中央は[3-3-3]で人数も密集しているわけですから、真ん中を打開していくのは相手もそう簡単ではない。当然サイドで起点を作ろうとします。しかしサイドにボールが出るとわかってるのだから、富山にとっても守備の準備はしやすいわけで、その瞬間に[3-3-3]の左右にあたる選手が素早くスライド。特に中盤のサイドエリアに人数をかけてボールホルダーに対して挟み込みやすい戦い方ができるわけです(もちろんすべてがこの通りいくわけでもなく、問題点や対応が難しいケースなども多々出てきますが、それは過去の試合分析を読んでください)。
 [4-1-4-1]でも、まずサイドでボールを奪おうという狙いは変わらないと思います。相手が中央から突破してこようとすると、中央にいる江添がいいタイミングで前に出てコースを切るので、相手はサイドにボールを吐き出す。サイドに出させたところで、ボランチや二列目、サイドバックの3枚が中盤で前と後ろから挟み込んでいく。守り方としては、[3-3-3-1]と同じコンセプトです。
 ただし深い位置でのサイドの守りでは、相手に起点を作られる場面が多かった印象はありました。同じ局面でも[3-3-3-1]であれば、CBがスライドし、さらにボランチがフォローに駆けつけるのですが、[4-1-4-1]だと、例えば左SBの吉井が1対1の局面のとき、アンカーの江添ではなく、その一列前にいるカンや谷田が最終ラインに降りてフォローに行くことになるため、時間がかかってしまうんですよね。中盤におけるサイドの奪い合いでは[3-3-3-1]と同じ守りができますが、深い位置に持ちこまれると、SBが1対1で相手に対応せざるをえなくなる場面が目につきました。
 いや、もちろん、SBが1対1で全勝できるぐらい個の強いのであれば何も問題ないのですけどね。ただそもそもの守り方の出発点が「いかにサイドで数的優位を作って奪うか」だと思いますから、[4-1-4-1]で「SBが1対1に晒されやすい」というのは、[3-3-3-1]のときには少なかった形なので、気になるところでもあります。
 最後に。
この試合で特筆すべき仕事をしていたのが、前半から攻守にわたって激しいアップダウンを繰り返していた二列目の谷田でした。ゲームレポートにも書きましたが、象徴的だったのが43分の場面。セットプレーのこぼれ球を自陣で拾って味方に預けると、そのまま駆け上がり、最終的にはフィニッシュに顔を出したんです。わかりやすくいうと、前線から自陣まで戻って守備のしごとをこなし、さらに奪ってからの攻撃の仕事にも絡んだわけです。安間監督がサイドに配置する選手に求める条件は、おそらくこういう仕事のできるプレイヤーだと思います。
 というのも、甲府時代の安間監督が、[4-3-3]のウィングの選手に求めていた仕事がまさにこれでしたから。マラニョンや大西がそのポジションなわけですが、相手ボールの局面で、マッチアップする相手SBが攻撃参加してきたら、ウィングは責任を持ってSBについていかねばなりません。それが守備の約束事でした。相手の中には、この約束事を利用して、サイドバックをおとりとして攻撃参加させることで、マラニョンや大西を自陣ではなく敵陣(甲府陣地)に引っ張り込み、甲府の攻撃力を半減させようとするチームもいました。
 しかし、それはこちらにとっては攻撃のチャンスでもありました。なぜなら、そこから味方が奪って攻撃につなげ、ウィングが相手ゴール前まで顔を出せば、ゴールチャンスが生まれやすかったから。理由は単純なことで、サイドバックが攻撃参加しているのだから、相手の守備組織にスペースや隙ができやすくなっているためです。しかもサイドバックというポジションの選手は、自陣から攻撃参加してクロスをあげて流れがひと段落すると、そこで「一仕事終えた感」が出てしまうのか、自陣への戻りがルーズになる傾向があるんですよね。確かに言われてみれば、全力疾走で攻撃参加するサイドバックはいても、そのあとも毎回全力疾走で戻っていくとは限りません。その習性(?)を利用して、サイドバックをマークしていたウィングが自陣から相手陣地に素早く攻めあがることができれば、ゴールチャンスになるというわけです。なんですかね。相手からすれば、サイドバックの攻撃参加でうまく敵のウィングを守備に追わせているつもりが、自陣にスペースを作らされており、敵はそこを狙っていたというところでしょうか。
 もちろんこのアップダウンは、ウィングにとって体力的には相当キツイはず。なにせ自陣まで戻って守備をして、そこからゴール前まで顔を出すのだから。でも安間監督は「(守備に)行って仕事が終わりじゃなくて、そこから(攻撃まで)帰ってきてまでがワンセットなんだ」と伝えていると言ってました。そして、それができるからレギュラーで起用していると。
・・・・すっげぇ長々としてしまいましたが、この試合での谷田の動きにそれを思い出したので書いてみました。
残りは1試合です。
J2:第37節 徳島 vs 富山】安間貴義監督(富山)記者会見コメント [ J’s GOAL ]

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