「真ん中で、ワンタッチでしか点が取れなかったのに、右に追いやられたわけですよ。何もできなくなった(笑)」。小林悠選手が右サイドにコンバートされたときの、風間監督とのエピソード。


 どうも、いしかわごうです。

昨日のブログで紹介した西部謙司さんの「監督たちの流儀」(内外出版社)の続きです。

西部さんの書籍にはわりと定番のエピソードがあるのですが、個人的にお気に入りのエピソードを紹介します。

それは、天才ヨハン・クライフの監督時代の話。

現在とは違い、ゴールキーパーがバックパスを手で処理しても許されていた時代に、彼はGKに対してペナルティエリアを飛び出してディフェンスの裏をカバーしたり、足で扱うように指導していました。

しかし、それではゴールががら空きになります。当時はGKは失点しないことが一番の仕事で、「GKがビルドアップに参加する」という発想すら理解されなかった時代です(なにせバックパスは、手でキャッチしてから味方に投げてつなげればよかった)。

 それなのにGKが前に出て足技を使えという。心配したGKアンドニ・スピサレッタは「(前に出て)ロングシュートを決められたらどうするんですか?」と、クライフに尋ねたと言います。

 そのときの回答が、実にクライフらしいです。

クライフは「そのときは相手に拍手すればいい」と答えてスピサレッタを愕然とさせた。GKが前進するメリットがあり、それがチーム全体の戦い方に不可欠の影響がある。だからたとえロングシュートを決められてもそれはいわゆるコストなのだと順々に説明すればよさそうなものだが、結論だけ答えているのがクライフらしい。

 プロセスを飛ばして結論だけを伝える・・・そうやって周囲を唖然とさせるのは、天才タイプの特徴かもしれませんね。

 この話で思い出したのが、フロンターレ時代の風間監督と小林悠選手のエピソードです。
2012年、小林悠選手はこの年の途中から就任した風間監督にセンターフォワードから、やったことのない右サイドハーフのポジションにコンバートされたんですね。このコンバートについて、小林選手はこう笑います。

「真ん中で、ワンタッチでしか点が取れなかったのに、右に追いやられたわけですよ。何もできなくなった(笑)」

 当時、典型的なワンタッチゴーラーだった小林悠選手は、ゴールから遠いサイドエリアでプレーしてもまったくうまくいかず、まるでゴールが奪えません。一時期は移籍することまで考えていたそうですから、小林選手としては相当モヤモヤが溜まっていたのだと思います。

 そこである日、風間監督に「右サイド、やっぱりできないです。真ん中にしてください」と直訴しに行ったそうです。

 しかし「いや、大丈夫だよ。できるよ」とあっさり突き返された。風間監督からすれば、右サイドでの動きをマスターすることで小林選手のゴールの奪い方の幅が広がっていくということがわかっていたのでしょうが、そのプロセスと理由をわざわざ話して説得しないわけです。相手によっては、「やればわかるよ」と結論だけ本人に言う・・・クライフっぽいところがありますね・笑。

 もしかしたら、選手によっては、そこでふてくされて、あきらめてしまうタイプもいるかもしれません。実際、風間監督の指導が合わない選手がいたのも事実でしたからね。

 でも小林悠選手は、そこで発想を変えて取り組んだんですね。「スタートのポジションは右サイドでも、ナナメからゴール前に行けばセンターフォワードと同じだ!真ん中だと思え!」と自分にも暗示をかけてプレー。日本代表・岡崎慎司選手の動き出しを参考して、取り組んでいたそうです。

 それを続けた結果、右サイドからの動き出しでゴールを量産。アギーレ前監督時代には、右サイドで日本代表にも初めて選ばれました。現在までの活躍ぶりは言うまでもないですね。去年はJリーグのMVPに輝きました。

ただ、もしあのときに発想を変えて取り組まなかったら、現在の小林悠選手はないかもしれません。

 日本代表戦があるので、風間監督と小林悠選手のエピソードを紹介しておきました。今日のマリ戦では大島僚太選手がスタメン濃厚らしいので、楽しみですね。

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鬼木フロンターレと風間グランパス。それぞれのスタイルで進んでいく、お互いの道。(リーグ第4節・名古屋グランパス戦:1-0)。





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