[書評]「越境フットボーラー」


どうも、サッカー本ソムリエ・いしかわごうです。
今回紹介する本は、こちらです。
$いしかわごうの「サッカーのしわざなのだ。」
「越境フットボーラー」
 メディアでは伝えられることのないサッカー海外組を描いた物語は、これまでも数多く出版されています。
 10年前だとパラグアイや欧州で挑戦を続けていた廣山望選手の「 此処ではない、何処かへ」、現在愛媛FCに所属している福田健二選手の「導かれし者」、5年ぐらい前だとライター・吉崎エイジーニョさんの「オレもサッカー海外組になるんだ」、秋元大輔さんの「僕たち海外組がホンネを話した本―フロンティア精神に学ぶ世界で勝つためのサッカー論 」もそうですね。
 そういう意味では、これを読んでもそんなに驚きはないだろうと思ってました。
 ところがどっこい。いやー、ぶっ飛んだね。
南米とも欧州とも違う。アジアでの海外挑戦がこんな世界になってるとは・・・・面白い!登場するのは、伊藤壇、中村元樹、酒井友之、星出悠の4選手。ページを開くたびに、自分が知らないサッカーの世界が広がっていく感覚でしたわ。ひさびさにページをめくる手が止まらなかったです。
 それぞれ四者四様でしたが、強烈だったのは、伊藤壇選手かな。
1999年にベガルタ仙台を解雇後、テスト生として自腹でシンガポールに渡り、ウッドランズ・ウェリントンFCに入団。その後は一年間で1カ国ずつ、10年で10カ国でプレーすると公言。オーストラリア、ベトナム、香港、タイ、マレーシア、ブルネイ、モルティブ、マカオ、インド・・・と毎年アジアのプロリーグを渡り歩いているだけあって、面白エピソードが実に豊富です。
 一番面白かったのが、ブルネイでのプリンス(皇太子)の話。
ブルネイリーグのトップリーグは、世界有数の富豪。しかも王室のプリンス(皇太子)がオーナー兼現役選手で、対戦のときには、自らポルシェを運転し、キックオフ5分前にスタジアムに登場し、「アップは王宮の庭でしてきたから大丈夫」と余裕の笑みを浮かべてプレーを始めるそうです・笑。ジャイキリのジーノかよっ!
 待遇も破格で、ある試合ではチームメートがGKを交わしてプリンスにラストパスを送ると、プリンスは無人のゴールに難なくボールを蹴りいれた。上機嫌のプリンスに好きな車を聞かれたので「メルセデス」と答えたら、翌日、ベンツが届いたらしい・・・プリンス、凄すぎ!!
ただプリンスは多忙を極めるため、出場は5分前まで不明。通常は1時間前にはメンバー表を提出するが、ブルネイ・リーグではプリンス枠のせいでスタメンは試合直前まで決まらないそうです・笑。
 このブルネイのように、日本よりレベルが低いと見られている国なのに、外国人選手としてプレーすれば、待遇はJリーグよりも全然いいじゃんというリーグも本書ではたくさん登場してきます。
 もちろん、無名な彼らは、道場破りやトライアウトを経てクラブに加入することも多い。そこで生き抜くとき、どんなポイントがあるのか。その術を垣間見るのも面白いです。

「日本だと練習生はそのチームの雰囲気に合わせてしまいがちだけど、海外でそんな空気に乗って遠慮してしまうと、本当にただの『空気』になってしまうんです」

 これは本書での星出悠選手の言葉です。
例えば、伊藤選手はトライアウトのときはこんな工夫をしているそうです。
・プロフィールには、自分の出た新聞のコピーをつけたり、アピールポイントを太字で書く
・練習着とスパイクは同じメーカーで揃えてスポンサーがついていることを強調する。
・誰よりも早くグラウンドに入り、リフティングを始め、少しトリッキーな技を見せる。
・まわりの選手が食いついてきたら、気軽に声をかけ「こうやるんだよ」と教えて仲良くなる。
・自分の技術の高さを見せ、仲良くなっておくことで、練習試合でもたくさんパスが回ってくる

なるほどねーっていう感じですね。「海外ではなかなか自分にパスにこない」なんて話はよく聞きますが、伊藤選手ぐらいになると、「じゃあ、どうすれば回ってくるのか」を考えて準備して、トライアウトに臨んでいるわけです。「短い時間で結果を出すためには、自分をいかに良い選手に見せるかという工夫を考え、追求していかなければならない」。サッカーに限らず、参考になる考え方ですよね。
 あとは・・日本代表がいい成績を収めたら、自分たちの扱いが変わるというのも妙にリアルでしたね。
例えば、伊藤選手は2003年にベトナムリーグでプレーしていましたが、当時はジーコジャパンで、黄金の中盤が騒がれていた時期で、ベトナムでは中田英寿選手が大人気で、日本ブランドが高く評価される大ブーム。そういうことで移籍しやすかったり、待遇がよかった、日本人の評価が市場にも直結していたとのこと。
 その国で初めての日本人プレイヤーとなるときは、その責任も感じる。
「活躍できないと『日本人は使えない』となり、安い給料で足元を見られて、それが日本人価格になるし、高すぎても『日本人は高い』というレッテルを貼られてしまう。基準となるので、最初の日本人ってすごく重要なんですよ。そういう意味では、日本代表ではないけれど、自分は日本を代表しているという気持ちでプレーしています」
 マイナー海外組を描いた「越境フットボーラー」、オススメです。
越境フットボーラー/佐藤 俊

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