[書評]戦術リストランテ


こんばんは。
サッカー本ソムリエのいしかわごうです。
今回紹介する本は、こちら。
$いしかわごうの「サッカーのしわざなのだ。」
「戦術リストランテ」
 フットボリスタで連載されているコーナーを書籍化した西部謙司さんの新刊です。
ボリスタ本紙では、試合をピックアップし、両チームのシステムによるマッチアップや、チームのスタイルやテーマの感じられるプレーを一問一答形式で掘り下げていくスタイルが多かったと思いますが、本書では欧州サッカーの最先端をいくバルサやレアル、マンUといったビッグクラブの戦術メカニズムを体系立てて解説。
 通常の戦術解説本ではなく、「戦術リストランテ」のタイトルにある通り、レストランのシェフのごとく食べやすく調理してくれていて、本の構成もレストランを意識した風味になってるのが特徴ですね。
 読者はレストランに来たお客のように戦術メニューを楽しめるわけです。
・前菜(基本フォーメーション解説など)
・主菜(チーム戦術の背景について考察)
・副菜(具体的なイメージを掴むための図版分析)
・デザート(テーマや関連する歴史や戦術的うんちく」

 というコースで読み進めるようになっています。
内容(料理)もいいのですけど、それに加えて、いろんな角度から読ませる工夫をしているところもいいですね。装丁もなんかオシャレですし。こういう部分もしっかり意識している本、サッカーブック・ソムリエなので、個人的にも好きです。
 例えば、僕は将棋の最新戦法の本なんかも読むのですが、やはり中高年を読者層にしているいるためか、基本的に作りが「硬派」で「重厚」なんですよ。表紙からしてかなり渋いですし。将棋の戦法本でも、こういうテイストの本があってもいいと思うですけどね。
・・・あっ、レストランなのでお客としての観想を言うと、美味しかったのは,バルサ関連の料理ですかね。ベタな舌で申し訳ないのですけど、バルサの新ビルドアップ方式、打倒バルサのために相手チームが採った戦い方、CLファイナルでマンUが挑んだバルサ包囲網、そしてモウリーニョによるクアトロ・クラシコの戦略などを、あらためて、いろいろな視点から体系立てて読んでみると・・・もとい、コース料理のように味わって食べていると、たくさんの発見がありましたね。
あとサッカーファンの方にはおなじみだと思いますが西部さんの文章は、相変わらずわかりやすいです。
・・・実は書評はこれで終わりません。
 収録されている2本の西部さんの特別対談にちゅいても触れておきます。
一本目は前FC東京監督・城福浩氏との対談でした。
「戦術論は現場でどう使われているのか」をテーマに語っていたのですが、現場重視の考え方と理論重視の考え方のバランスの取り方、戦術を体得させる具体的な指導法などは、現場を知る指導者ならではの肌感覚だと感じました。
 対談の中で、フランスの作家がバルサを評して「殺菌されたフットボール」と言っていた話が興味深いですね。フットボールには挑発とか駆け引きとかいろんなものが混ざって競技になっているはずなのに、バルサだけは自分たちの理論で統一されすぎていて「雑菌」のないサッカーになっていると。
 そんな戦術色の強いバルサを、城福氏は「五角形のチャートでいえば、技術の項目だけがチャートを完全に超えている」と表現しています。普通ならば、平均で劣っている部分を補おうとするのだけど、バルサは自分たちの最大の特徴をさらに追求することで、チャートの面積を増やしている。そうじゃなければ、イブラフモビッチやエトーを放出しないよ、と。
 この話を聞いていて、ふとよぎったのは大木武監督時代のヴァンフォーレ甲府。
特に、J1の2年目07年シーズンはバレー、アライール、倉貫選手といった主力が移籍したため、個の戦力は明らかにJ1レベルでは見劣りしました。しかしそこで大木監督が採った戦法は、個で勝負するのではなく、密集地域で数人で徹底的にショートパスをつないで局面を打開していく方法。
残念ながら降格してしまいましたが、まさに平均で劣っている部分を補おうとするのではなく、自分たちの最大の特徴をさらに追求していくチームでしたわ。実際、あのときの大木さん、「パススピードは少しだけバルサのほうがうまいけど、切り替えの速さならウチのほうが上だな」と笑ってましたっけ・笑。
 もうひとつはフットボリスタ編集長・木村浩嗣氏との特別対談。テーマは「伝える側にとっての戦術論」。
 これは、わりとメディア側に寄った話なので、読者の方よりも、むしろ僕のほうにど真ん中だったかもしれませんね。自分もサッカーのライターなので、やはり文字でサッカーをどう表現するのかという命題は付きまとうわけですが、90分間の全てをロジックで分析し切れる試合なんてないですからね。
それでも、エンターティメントとして成立させるためには、デフォルメしてストーリー化させなければならない。だからといって、事実だけツラツラ書いても読み物として面白くないですからね。そこらへんのジレンマは、サッカーライターならみんなあると思います。
 この対談の中で共感できたのが、戦術の面白さは発想の意外性にあるというところ。
「戦術というのはその監督の頭の中のことだから、サッカーの見方とか論理構成につながっている。クライフの話がいつも面白いのは、あの人は一種の天才だから発想が面白いのだ」と。
 本当にそうなんですよ。僕らは取材者として、監督にも直接話を聞けるわけで、そういう経験を通じてそのサッカー観も垣間見れるわけですが、それも醍醐味だったりしますから。
 
 例えば、[3-3-3-1]システムで話題になったカターレ富山の安間監督の戦術の発想とか、本当にぶっ飛んでますからね。「11人でサッカーをしようとするからいけないんであって、自分たちが12人いるように相手に見せるには、どういう配置や戦術が良いんだろう?」とか考えてたら朝になってましたとか、そういう人ですから・笑。
・・・とまぁ、長々と書評を書いてしまいましたが(2000文字越えてた・笑)、とにかくこの本をしっかり読めば、これからの欧州サッカー観戦ライフの楽しみが増えることは間違いないと思います。
 「戦術リストランテ」。
サッカーブック・ソムリエいしかわごうとしても、オススメ度の高い一冊です。
戦術リストランテ/西部 謙司

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